しょっぱい五・七・五 俳句コンテスト 入選作品発表


夏井いつきさん

俳句集団「いつき組」組長


八木 健さん

滑稽俳句協会会長
国重要文化財萬翠荘館長

グランプリ2名様
賞品:賞金10万円 + しょっぱウマい玉手箱

努力して報われなくても汗は出る(宮城県/塩青年)

努力すれば報われる これが大方の道徳観念だが実は違う。
努力しても報われぬことが多い。
しかし、それを不運と受けとめるのではなく、「努力に無駄はない」「報われなくても「汗」という褒美をもらえ」と理解したい。

風船に左遷の息を足して春(大阪府/みずなす)

「左遷」という言葉が効いています。
意に沿わない人事異動でも受け入れるのが宮仕えと割り切り、ため息と共にふーっと風船を吹く。風船の向こうには愛しい子どもの姿も見えてきます。風船が膨らむように新しい春も膨らんで行くのでしょう。季重なりの句ではありますが「春」という大きな季語が全てを受け止めています。

グランプリ6名様
賞品:賞品:賞金3万円 + しょっぱウマい玉手箱

泳ぐこと諦めている海鼠かな(愛媛県/伊予蛙)

体型からして泳ぐことは無理。はじめから諦めている。
高望みせず海底を安住の地と決めている海鼠。
しょっぱい生涯だ。「俳句」は「詩」ある。
「詩」には哀しみが透けてみえるもの。海鼠の生涯はしょっぱい人生に似る。

先生と食べた運動会の卵焼き(神奈川県/さっちゃん)

親も来られなかった運動会のお弁当。
みんなが家族と楽しい昼食の時を過ごす傍らで、先生と二人食べる卵焼きは、しょっぱさを懐かしむほどに柔らかな記憶となって、今も心の片隅にあるのでしょう。

一球で敗戦投手雲の峰(東京都/十猪(じゅっちょ))

俳句は瞬間を詠む文芸である。
敗戦投手となる瞬間は、球を飲み込んだ雲の峰しか見えぬが、このあと、蔭口を叩かれたりチームメイトに「気にするな」と慰められたりすると余計に、落ち込むものでこれは「しょっぱい」

半世紀前の同棲塩キャベツ(愛媛県/大塚迷路)

若かったなと振り返りつつ反芻する青春でしょうか。
そう言えば「同棲時代」なんて歌も流行ったかなと。
パリンと噛む塩キャベツのしょっぱさと仄かな甘さが心を慰めてくれる。
老いも悪くないなと思う今日この頃でしょうか。

振袖の成人の日のいかり肩(埼玉県/橋爪 あゆみ)

俳句は基本的に自身のことを詠む。
和服は「なで肩」の日本人の体型にマッチしたつくりである。
ところが体格が西欧化してきて「いかり肩」が増えている。
折角のふり袖でいかり肩が目立つのは「しょっぱい」ことだ。

しろたえの塩ひきつめん鮭の腹(大阪府/博士)

紅色の鮭の腹に真っ白な塩をどっさりとひく。
丁寧に塩を詰めることで極上の塩鮭になって行くのでしょう。
「しろたえ」という枕詞は和歌の時代からのイメージを合わせ持つので塩の純白が際立ちます。

入選20名様『伯方の塩』10年分+しょっぱウマい玉手箱

ビデオ役レンズの中の運動会  (大阪府/ラッキーミッキー)

今年も吾子の運動会のビデオ撮影はパパ。運動会の現場にいながら肉眼で見たことがない。妻子が寝ている時間に出勤し帰宅すればすでに寝ている。吾子の成長ぶりを確認しつつ、頑張れと応援出来ぬ。これは「しょっぱい」

今生の別れの梨と思ふ夜も (東京都/五島 洸(ごとう ひかる))

「別れ」と「梨」の取り合わせがしょっぱさと仄かな甘さを合わせ持って夜を深くして行きます。

北風に負けるもんかと出て転ぶ (佐賀県/寿々)

「北風に負けるもんか」には勢いがあってプラスイメージだが「出て転ぶ」はマイナスイメージ。裏切り構成で滑稽句となった。転んだのは「いつまでも若いと思うな」の警告だ。年齢は嘘をつかない。そこが「しょっぱい」

あやまれば済むものをツンと上向いて麦の穂 (愛媛県/日暮屋 又郎)

「麦の穂」に仮託した作者自身の姿でしょう。少しの自省を持ちつつ、でも「麦の穂」のように真っ直ぐ上を向いているのでしょうね。

クリスマス一人がとても楽になり (東京都/いいだや)

宗教に関係ない日本のクリスマスイヴのどんちゃん騒ぎは若者達のもの。ある年齢になるとそれは煩い。若者に調子合わせるのも疲れる。独りがいい。淋しくは無いかなど余計なお世話だ。と強がりを言う自分が「しょっぱい」

凍雲や粗塩のような時間 (愛媛県/野間 千陽)

冬の雲の下、やや粗さを残し苦さもある、そんな時を過ごしているのでしょう。生成されて塩が姿を変えるようにやがて時も移って行くのです。

初恋の人も来ている敬老会 (神奈川県/北村 純一)

何十年も心の中にしまっておいた初恋の人が敬老会に来ている。まだ話しかけることができない。それが「しょっぱい」。歳月は経ても面影は残っている。しかし、あの頃に比べると婆さんになったものだ。しょっぱいね。

「馬鹿野郎」叫べば夜光虫揺るる (愛媛県/渡辺 瀑)

我慢できず、海に叫んだのでしょう。暗い海は気持ちを受け止めてはくれないのですが、夜光虫の光は揺れつつ答えてくれているようです。

入る時は誰も送らぬ初日かな (静岡県/満川 恒朗)

同じお日様なのに朝と夕方ではこんなにも待遇が違うのかと初日が人間不信に陥るのである。俳句は誰も気づかなかったことを見つけて句に詠んで座の者を驚かせる。初日でありながら冷遇される夕日の気持はしょっぱい

秋高し棺に楽譜抱かせて (愛媛県/土居正明)

晴れ上がった秋の空に送る棺。音楽を愛した人の為に愛用の楽譜を入れたのでしょう。あちらでも素敵な音に包まれるようにと。

サクラサク振った男が医科大へ (愛知県/つちのこぱんだ)

振らなければ良かったが「しょっぱい」思い。勉強ばかりで面白みがなかったから振った。医者になる男を見る目がなかったことがしょっぱい。しかし、収入は少なくても面白い男の方がいいか。と揺れる心もしょっぱい。

巻尺について出てくる秋思かな (愛媛県/神楽坂リンダ)

スルスルと引っ張り出す巻き尺に秋思がくっついていると。ドンドン引き出せば秋思もドンドン。でもある程度引き出せば終わるのです、巻き尺も秋思も。

振られたるバレンタインチョコの味 (愛媛県/芽昴里)

考え落ちの句である。バレンタインチョコレートを受け取ってもらえなかったのだろう。振られたことを残念に思い、帰宅して机上に放り出したチョコ。仕方ないから自分で食べる。苦さ十分には「しょっぱい」の意味が。

余命知る父と魚拓と冬凪と (東京都/まどん)

何ヶ月、何年でしょうか。余命を宣告された父と釣果を誇る魚拓。魚の大きさほどに悩みは膨らまないのかもしれません。冬の凪の中ですから。

農継がぬ我にも届く今年米 (三重県/古川和子)

実家から、この秋に収穫した米が届く。年老いた両親からか、農業を継いだ兄弟からか。自分は農業を手伝ったことは一度もない。それが「しょっぱい」のだ。東京へ出たものの経済的に厳しい「しょっぱい」日々なのだ。

涙が落ちたほうの鯛焼きを下さい (群馬県/大澤徹也)

泣きながら鯛焼きを焼く?買う?もし私が売り手なら全部の鯛焼きに涙を落とすかもしれません。

行間に逢ひたき想い寒見舞 (大阪府/吉本 節代)

受けとった葉書。年賀状に対する返信が「寒見舞い」という場合は「服喪中」ということ。行間には、印刷でなく手書きである。作者は行間に「逢いたい」の思いを読みとる。「私も逢いたい」と書けぬことが「しょっぱい」

押入れですねるちいちゃん春の蝉 (愛媛県/宇摩のあかつき)

幼い子どもでしょうか。押し入れにこもってお母さんの優しい言葉を待っているのでしょう。泣き出した蝉のように少しか細い声が押し入れからも聞こえます。

年末のジャンボ一等組違い (島根県/ぽん太)

残念。落ち込むほど悔しいが、いくら悔しいとて仕方のないこと。悔しさの度合いは投じた資本金に比例する。ジャンボに限らず宝くじは「しょっぱい」思いの大盤振る舞いである。一攫千金を夢見る根性も「しょっぱい」

進化論のてつぺんにゐて花粉症 (北海道/まっちゃん)

人類への応援とも皮肉とも。人間なんて進化の一番上にいると思っても花粉にさえ負ける存在。進化することは、はて良いことなのかとクシュン。

センスあり!~選者の気になる次点作品~

  • 帰省するたびに増えてく親のしわ(千葉県/吉井省一)
  • 三姉妹雛人形は一つだけ(神奈川県/そー)
  • 母の日の 肩たたき券 支払い制(静岡県/土筆)
  • 意見には聞く耳持たぬ懐手(群馬県/沢井ひろ志)
  • パスポート家に忘れて冴返る(神奈川県/竹澤聡)
  • 参道に息も絶え絶え七五三(大阪府/ゆきこ)
  • 泣けぬ夜の微熱続くやヒヤシンス(大阪府/中山奈々)
  • 塩撒いて冬虹消してしまつたか(石川県/玉鉾一)
  • 笹鳴きの窓辺へ軽き母を抱く(愛媛県/ターナー島)
  • 朧夜の遺品のひとつ診察券(愛媛県/村重香霞)
  • この冬にあたし再婚したいです。まる。(東京都/葦信夫)
  • 捨て犬の眼は冬星の色をして(愛媛県/山根未久)
  • 蝶だって 泣きたいときは 隠れます(埼玉県/ゆびやさ)
  • 伝書鳩めきたるバレンタインの日(愛媛県/きとうじん)
  • 東京は靴擦れの街春驟雨(神奈川県/佐藤直哉)
  • 湯冷めして小骨の多き魚となる(愛媛県/亜桜みかり)
  • あらたまの跳ね返されるお賽銭(愛媛県/俳号あねご)
  • ままごとのやうな人生蒲団干す(三重県/三重丸)
  • 恋猫にあをき失意の日を想ふ(神奈川県/凡主)
  • 言い訳の飽和す花屑の涙(愛媛県/紗蘭)
  • 彦星や涙のぬぐい方を聞く(京都府/ノア)
  • 狐火をバッグに詰めて入院す(埼玉県/鈴木良二)
  • 夏果や海になるための涙(京都府/渡邉玉貴)
  • 思い出は海に流そう冬銀河(佐賀県/寿々)
  • 鰯雲15の自分連れて来る(兵庫県/よんさんず)
  • 秋風に知られたくない孤独など(滋賀県/邦ちゃん)
  • 梅干して雑言飛ぶや星の庭(広島県/マシャ)
  • 雪しんしん離農を告げる父の肩(千葉県/山田たかし)
  • スクラムや口へ飛び込む敵の汗(大阪府/糀谷終一)
  • 見送りの祖父母ぼやける夏の駅(京都府/橘紀子)
  • 終電を逃した駅の月見酒(東京都/琴音翼)
  • 月ばかり褒めて好きだとまだ言えず(兵庫県/よっち)
  • 沢庵の尻尾好みも父譲り(埼玉県/宮内則幸)
  • たんぽぽや田舎教師となる赴任(青森県/凍河)
  • 鈴虫を あげて短い 恋終わる(埼玉県/櫻林寺はなよ)
  • 歌留多よむやうなさよなら絵葉書は(栃木県/久我恒子)
  • かさぶたのままの八月十五日(福井県/光風雫)
  • 初暦まず採血日書き留める(静岡県/保志郎)
  • 桜貝幼き恋の色をして(岐阜県/直井照男)
  • 九十の母が母恋ふ炎天下(群馬県/川野忠夫)
  • 眠る子の睫毛の濡れて桃の花(愛媛県/矢野リンド)
  • 一分の黙禱長き終戦日(宮城県/阿部奈津紀)
  • おかえりのひとつ少ない夏休み(岐阜県/朝乃)
  • 秋の風私は自分育てます(愛媛県/りえ)
  • 大人なら言えぬあれこれ春炬燵(愛媛県/恵水)
  • 泣き虫が蚊帳吊草の向こう側(東京都/八塚一青)
  • ざわざわと反抗期来る立夏かな(沖縄県/前田 千文)
  • たんぽぽや 泣きたいならば 天上へ(埼玉県/ゆびやさ)
  • 廃校の窓や四人の卒業歌(北海道/北野蛍)
  • 凍星や十七歳の先は海(愛媛県/中根迪)
  • 息白し陰画の海を渡ってく(愛媛県/村上明由)
  • 恋ひとつ告げず卒業生起立(北海道/福永敬子)
  • 点滴の膨らむ時間月冴ゆる(愛媛県/ほろよい)
  • かあさんは名前じゃないの冬灯(愛媛県/みいみ)
  • 寂しさと交はす視線や蜆汁(山梨県/村田一広)
  • 冬銀河子犬ほろほろ生まれけり(岡山県/石塚春菜)
  • 本音言い合えず春の月遠し(愛媛県/シャビ)

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